犯罪者と子犬の飼育について〜米国編〜

米国の再犯率はおよそ50%。そんな中、再犯率ゼロという青少年刑務所があります。世界も注目するこの刑務所で行われているのが「プリズンドッグ」というプログラム。

受刑者の若者に保護犬を預け、お世話を任せます。その期間は3ヶ月。一緒に暮らしながら訓練をしていく中で若者たちは失っていた「心」や「感情」を取り戻していきます。

犯罪者の更生と動物(犬)について、米国と日本の状況を2回にわたりご紹介します。

後編はこちら

共に心に傷を負っている若者と犬

この施設の若者の多くは、親に見捨てられた過去があります。彼らは虐待された経験、育児放棄のために家に居場所がない毎日を過ごしていたために、心に大きな傷を負い、心の奥にある孤独や痛みをもったまま成長しています。

このプログラムに参加する犬もまた、飼い主に捨てられた経験、虐待、飼育放棄など、何らかのつらい経験をもっているため、人に対して心を閉ざしてしまっています。

若者も保護犬も共に、最も信頼し愛情を求めていた相手に裏切られたことで、心と体に問題を抱えています。

 

無条件に愛し愛されることで起こる若者の心の変化

人は愛されると自分自身を認め自己肯定感を持ちます。自己肯定感を持つと、ほかの人への思いやりや配慮する心が芽生えます。このプログラムは犯罪を犯した若者が犬と触れ合い世話をすることで、本来、人が持つべき「大切な心」を取り戻し、人として成長し、社会復帰できるようになることが願いです。

朝起きると犬のごはんの準備やお散歩が待っています。その後しつけを教えていかなければなりません。しつけしようにも、相手は簡単に言うことを聞いてくれません。そのうえ、うんちやおしっこの掃除もしなければなりません。「我慢」の連続です。それでも受刑者の若者は、犬が今どんな気持ちなのか、何をして欲しいのか、犬の気持ちを考えるようになります。

彼らはこうした訓練から「辛抱強さ」と相手の気持ちに目を向ける、「思いやりの心」を学んでいきます。そしてしっぽをふって自分を見つめる相棒に少しずつ愛情が湧いてきます。

犬は本来飼い主の愛情に応えたいと思う動物です。毎日の生活の中で少しずつ心の距離も近くなり、最初は人に対して不信感を持っていた犬も徐々に心を開いて、受刑者の若者との信頼関係も築かれていき、お互いが無条件で愛したい存在になっていきます。

生きていることの価値

受刑者の若者と保護犬との間に信頼と愛情の絆ができた時、それが別れの時です。プログラムを始めて三か月経つと、育てた犬は「卒業犬」として希望する人に譲渡されます。このプログラムのすごいところは、受刑者の若者が引きとりたいという家族に直接、世話した犬を紹介するというところです。

受刑者の若者は育てた犬を撫でながら、この子がどんな性格で、どんな可愛いところがあるか、育ってきた過酷な状況からこんなに人に信頼を置くようになったという経緯など、育てた犬をいっぱい褒め、説明します。説明している彼も自然と笑顔になります。

彼にとって今自分の傍らにいる犬はもうただの犬ではありません。温もりを感じることのできるたった一人の家族。心の友。相棒です。これからずっといっしょにいたいという気持ちと、新しい家族のもとで幸せになって欲しいという気持ちとで若者の心も複雑です。

それでも引き取りが決まった前日は、愛犬と最後のひと時を心ゆくまで楽しみます。きれいに洗ってあげたり、じゃれあったり、この温もりを忘れないようにと抱きしめ、優しいまなざしで愛犬を見つめます。

そして新しい家族に引き渡すとき、受刑者の若者は新しい飼い主さんに「素晴らしい犬だ!君に感謝している」「君の努力に敬服する」と感謝の言葉をかけられます。感謝をされるとどんな気持ちになるか初めて感じます。そしてその言葉で彼は人としての尊厳を取り戻し、生きている価値を実感します。

サプライズとして、自分の育てた犬がその後どんな生活を送っているのか、新しい飼い主さんが送ってくれた動画を見せてもらいます。幸せそうな犬の姿を見て若者も笑顔になります。

まとめ

犬と人との絆は他の動物とは違う特別な関係を与えてくれます。このプログラムを通して若者は犬から「無償の愛」を受け、「与えること」に目覚めます。そして自分が誰かの役に立てた喜び、殺処分になる命を救い新しい家族に導けた喜びは、彼らの誇りとなり自信へと繋がります。

この経験は受刑者の若者の心の成長となり、社会に出た後生きる目的を持つようになります。刑務所で経験したことを生かしてドッグトレーナーになる若者や訓練中に犬のよい特質に気づきセラピー犬として活躍している犬もいるそうです。

このプログラムによって若者と犬の間に生まれた絆は、お互いを支える存在になっただけでなく、それぞれの可能性を引き出すことができ、改めて私たち人間にとって犬の存在の大きさを教えてくれるものとなりました。次回は日本の少年院で行われているプログラムの様子をお伝えしたいと思います。

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