犯罪者と子犬の飼育について〜日本編〜

前編でご紹介した、再犯率の高いアメリカで再犯率ゼロを可能にした青少年更生プログラム「プリズンドッグ」。
このプログラムを日本で唯一行っているのが、千葉県にある八街(やちまた)少年院です。アメリカの更生施設や女子刑務所で経験を積んだドッグトレーニングインストラクターが少年たちを指導します。

プログラムの名前は「Give Ⅿe aChance」の頭文字をとって「GⅯaC」(ジーマック)、“僕にチャンスを”という意味です。この“僕”は少年たちであり、保護犬でもあります。彼らはトレーニングを通してセルフエスティーム (自分を肯定し尊重する心)を学んでいきます。

前編はこちら

日本独自の「GⅯaC」(ジーマック)プログラム

日本のプログラムはアメリカのプリズンドッグと大きく違う点が2つあります。

一つはアメリカでは受刑者の少年は犬と生活を共にしていましたが「通い型」にしたこと。
これは院内に犬を適切に飼育する設設備環境が整っていないので、犬に安定した環境を与えるために、ドッグトレーナーの方が自宅で犬の面倒をみて、トレーニングの時に連れてくるという方法にしました。

もう一つは少年たちと社会とのつながりです。
週末だけサポートファミリーといわれる地域ボランティアのお家で犬を預かってもらいます。少年とサポートファミリーは交換日記を通して交流を深めます。新しく飼い主になる方にも少年に手紙を書いてもらいます。これは一般市民の人たちにも犬を通して少年院にいる少年への理解とサポートを深めて欲しいとの願いからです。

愛されることを知らない少年と犬

少年院に入ってくる子のほとんどが、本来与えられるはずの愛情を受けられず、親からの暴力、虐待、また育児放棄によって「自分」という存在を否定され続け育っています。彼らの心は幼い時から傷ついたまま、人に心を閉ざしています。同様に犬も心ない飼い主によって虐待され、飼育放棄によって捨てられ、心に傷を負っています。

そんな背景を持つ彼らにインストラクターの鋒山さんはこんな言葉を投げかけます。「犬たちはなぜ捨てられると思いますか?悪い犬だからじゃないんです。人がちゃんと教育しなかったからなんです。」少年たちは犬と自分の育ってきた境遇と重ね合わせ、三か月の訓練が始まります。

思い通りにならない。そこから学べること

訓練は週4日1回90分。少年たちにとって犬との訓練は「失敗」と「思い通りにならない」ことの連続です。その「思い通りにならない」ことから彼らは「忍耐力」や「自分の感情をコントロールすること」そして「相手のことを考えること」を学びます。

そもそも犬は信頼する人の命令しか聞きません。少年たちは限られた時間の中で犬との信頼関係を築くために考え、語りかけ、コミュニケーションを取りながら訓練していきます。

スモールステップ

犬を訓練する方法に「スモールステップ」という方法があります。犬にとって難度の高い課題を最初からいきなり達成を目指すのではなく、いくつかの小さなステップに分けて、簡単なことからより難度の高いことへと段階を追って達成していく方法です。この訓練方法の大切な点は「成功体験」です。

「成功体験」は犬に「楽しい」「嬉しい」「もっとやりたい」という気持ちにさせます。ですから1日の訓練の最後は必ず「成功」で終わらせます。そうしないと犬には失敗した記憶だけが残ってしまいます。三回やってダメならそのコマンドはやめて、その犬の得意なことをやって終わらせてあげます。「三回以上は失敗させない」この訓練の大切なルールです。

どんなに小さなことでもいいので、犬に「成功体験」を積ませて、たくさん褒めてあげる。「小さな成功」を積み上げていくことによって犬は少しずつ自信を持ち、より深く学べるようになっていきます。

「スモールステップ」は少年たちにとっても意味のある訓練です。彼らもまたこの訓練を通して褒められることが「成功体験」となり、その小さな積み重ねが自信になり、本来の「自分の価値」を受け入れることができるようになります。

少年の心を開かせる犬とボランティア家族との交換日記

犬との時間を共有することによって少年たちの心は少しずつ開かれていきます。なぜでしょうか。それは犬がありのままの自分を受け入れてくれるからです。犬は少年のことを「非行少年」とは思いません。一生懸命に自分に寄り添おうとしてくれます。

またボランティア家族の存在も大きく、交換日記によって、ボランティア家族と少年との間に絆が生まれます。少年はボランティア家族からの優しい言葉、温かな励ましから自分は独りではないことを感じます。

3か月経ち全過程を終えて見事試験に合格した少年たちとそのパートナーの犬たち。彼らは笑顔と温かなまなざしでそれぞれの犬へメッセージと共にバンダナを巻いてあげます。関わったすべての人に感謝を伝える少年の姿は、感情を見せず、石のように無表情だった以前の少年ではありません。やり遂げた達成感と喜びに満ち溢れます。

まとめ

人は犬と共にいることで素直な自分に出会えます。ありのままの自分を受け入れてみようという気持ちになります。「失った自信は取り戻せる」彼らはそれを教えてくれました。
私たちは何度もつまずき失敗します。「Give Ⅿe aChance」できることならもう一度チャンスが欲しいと思いませんか。

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