不思議な能力シリーズ1「低血糖探知犬」

犬は私たちの身近にいながらその能力のすごさについては、まだまだ知らないことがいっぱいあります。世界ではそうした犬の能力を研究し、医療に役立てています。

今月の水曜日は、こうした特別な能力をご紹介してまいります。

第1回目は「低血糖探知犬」。
日本ではまだ聞きなれないこの犬は、実際、医療の現場で多くの命を救っています。

嗅覚を使って活躍している犬といえば、警察犬や麻薬探知犬を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、今回はそのような表立った活躍の場はなくとも、違った分野で私たち人間をサポートしてくれている「低血糖探知犬」についてお伝えしたいと思います。

糖尿病の一番怖い症状それが低血糖

「低血糖探知犬」とはⅠ型糖尿病の患者さんが低血糖になった時、いち早く知らせてくれるよう特別に訓練を受けた犬です。低血糖はどれほど危険なことなのでしょうか。そもそも私たちのからだは、ごはんやパンの糖質が血液の中で分解しブドウ糖になり、それがからだを動かすガソリンのような役目をします。

Ⅰ型糖尿病患者の方は、この分解に必要なインシュリンを体内で作れません。そのために、日に何度も指先に針を刺して血糖値を測り、平常な値になるようインシュリンを注射し調整しています。血糖値はその日に食べたものや、運動、体調などで値が大きく変化するので、患者さんが知らない間に低血糖になることもあります。

低血糖がわかってインシュリンを注射しても調整がうまくいかず、失神やけいれん、また意識がなくなるという低血糖発作を起こしてしまいます。
ですからその時すぐに糖の補充をしなければ命の危険があるので、低血糖をいち早く知ることは大切なのです。患者さんはいつもこうした状況に不安を覚えながら暮らしています。

体内のにおいを嗅ぎ分ける低血糖探知犬

なぜ低血糖探知犬は患者さんの低血糖がわかるのでしょうか。彼らは患者さんが低血糖になった時に体内で起こる微妙な変化を嗅覚でかぎ分けています。ケンブリッジ大学ウエルカム・トラストMRC研究所の研究によると、「低血糖時には呼気に含まれる『イソプレン』という科学物質が2倍に増える」ことがわかりました。低血糖探知犬はこの物質の変化を嗅ぎ分け患者さんに伝えています。

毎日患者さんの命を助けている低血糖探知犬

では低血糖探知犬はどのように患者さんの低血糖を知らせるのでしょうか。患者さんが低血糖になると、患者さんの腕や足をゆすって知らせます。計測器を加えて持ってきてくれることもあります。夜間の場合は跳びあがって眠っている患者さんの肩に前足を置いて起こしたり、気がつかない時は吠えて知らせます。周りに人がいればその人に訴え助けを求めます。

Ⅰ型糖尿病患者の方はひとりでいる時が最も危険なのですが、低血糖探知犬は心強いパートナー。もし患者さんが倒れて意識がなくなったとしても、まわりに誰もいなければ、緊急用ボタンを叩いて救急車を呼んでくれます。

患者さんの反応がある時は、冷蔵庫を開けてオレンジジュースなどの糖分を犬は自分で選んで患者さんの手元に運びます。意識があっても動けない時があるからです。このように低血糖探知犬は低血糖を知らせるだけでなく、患者さんの命が安全だと確認するまで手厚く働いてくれます。このように彼らは毎日患者さんの命を助けています。

低血糖探知犬の育成プログラム

24時間そばにいて人の命を守ろうとする低血糖探知犬。人間でもこのような仕事はなかなかできません。彼らはどのような訓練を受けているのでしょうか。まず、低血糖と正常血糖の患者さんの汗を採取し、同じ形の見分けのつかないボトルに入れ、糖尿病でない人のサンプルも加えて嗅ぎ分ける訓練を行います。正しく選んだらご褒美を与えます。

これを繰り返し、嗅ぎ分ける能力を高め、さらに何度やっても正確に嗅ぎ分けられる犬だけを選びます。その後は介助犬の訓練と同様、物を運ぶことや移動、作業の補助、ドアの開け閉め、室内の点灯や消灯など生活をサポートする訓練を1年半行います。続いて、低血糖の感知能力の強化と低血糖時の対応の訓練をさらに6か月間行います。根気のいるこの育成にかかる費用は約3万8000ドル(420万円)といわれています。

まとめ

Ⅰ型糖尿病患者の方にとって「低血糖探知犬」は「探知犬」ではなく「パートナー」です。もちろん低血糖を知らせてくれるおかげで生活は大きく変わりました。家族がいつも一緒にいなくても安心ですし、夜寝る時に「寝ている間に低血糖になったら」という心配もなくなりました。そして何よりずっと傍らで寄り添ってくれるパートナーがいること、これは患者さんの精神的な支えになっています。まさに「心のパートナー」。もしかしたらこの精神的支えが彼らの大きな働きなのかも知れません。

日本でもこの「低血糖探知犬」の必要は大きく、その育成が始まったようです。毎日自分で注射しながらこの病気と闘っている子供たちは「低血糖探知犬」を心待ちにしています。保護犬を訓練し「低血糖探知犬」にするこの取り組みが実現すれば、殺処分される犬を救うと共に患者さんの安心した生活を取り戻すことができます。私たちもこれからこの取り組みに注目していきたいですね。

【豆知識】

米国で初めて低血糖探知犬になった子は、盲導犬候補だったそうですが元気すぎて盲導犬になれなかったそうです。その子の性格を理解して能力を発揮させてあげることが大切なんですね。

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